ことばが遅い子への話しかけ方10のコツ|インリアルアプローチを現役言語聴覚士がわかりやすく解説
「たくさん話しかけましょうと言われたけど、具体的にどうすればいいの?」
「話しかけているのに、ことばがなかなか増えない…」
「急かしているつもりはないのに、子どもが萎縮している気がする」
そんなふうに悩んでいるママ・パパへ、この記事を書きました。
こんにちは。現役言語聴覚士(ST)の「こん」です。療育センターで10年以上、ことばの発達が気になるお子さんと関わっています。
「話しかけ方を変えるだけで、子どものことばは動き出す」——これは、私が臨床の現場で何度も実感してきたことです。この記事では、STが実際に使っている「インリアルアプローチ」という手法をベースに、家庭でできる話しかけ方10のコツをわかりやすくお伝えします。
ことばの遅れが気になる年齢別の詳しい解説はこちらもご覧ください。


インリアルアプローチとは?
インリアルアプローチ(INREAL:INter REActive Learning and communication)は、1974年にアメリカのコロラド大学で開発された、ことばの発達支援の手法です。日本には大阪教育大学の竹田契一教授によって広められ、現在も言語聴覚士の訓練場面や療育の現場で広く使われています。
この手法の最大の特徴は、「ことばを教える」のではなく、「やりとりの中でことばを育てる」という考え方です。
従来の言語訓練のイメージは、「机を挟んで一対一でことばを練習する」というものかもしれません。でもインリアルアプローチは違います。日常の遊びや生活の場面の中で、大人の関わり方を少し工夫することで、子どものことばを自然に引き出していく方法です。

インリアルアプローチの考え方はシンプルです。「子どもが主役、大人はサポーター」。大人が主導するのではなく、子どものペースに合わせ、子どもの興味に沿いながら、ことばが出やすい環境をつくってあげることが大切です。
まず知っておきたい!基本姿勢「SOUL」
インリアルアプローチでは、具体的な話しかけ方の技法を使う前に、大人が持つべき基本姿勢として「SOUL」という4つの姿勢が定められています。技法よりも、この姿勢の方が実は大切です。
S:Silence(静かに見守る)
子どもが何かをやろうとしているとき、大人がすぐに手を出したり、ことばを先取りしたりせずに、静かに待ちます。子ども自身が行動を始めるための「余白」を作ってあげることが重要です。
O:Observation(よく観察する)
子どもが何に興味を持っているか、何を伝えようとしているかを、ことばだけでなく表情・視線・指さし・身振りも含めてよく観察します。「今この子は何を感じているか」を丁寧に読み取ることが、次の関わりにつながります。
U:Understanding(深く理解する)
観察したことをもとに、子どものコミュニケーションの意図を理解しようとします。「なんで言えないんだろう」ではなく、「今この子は何を伝えたいんだろう」という視点で子どもを見ることが大切です。
L:Listening(耳を傾ける)
ことばだけでなく、喃語・泣き声・身振り・視線など、子どものあらゆるサインに耳を傾けます。「ことばが出ていない」ではなく、「今この子はどんな方法でコミュニケーションしているか」を受け取ろうとする姿勢です。

臨床でよく見るのが、「もっと話しかけなきゃ」と焦るあまり、大人が一方的に話し続けてしまうケースです。でも実は、話しかける「量」より、子どものサインを「受け取る」ことの方がずっと大切。SOULはその土台になる姿勢です。まずここから意識してみてください。
【メイン】ことばが遅い子への話しかけ方10のコツ
ここからは、インリアルアプローチの7つの技法をベースに、STである私のオリジナルの3つを加えた、計10のコツをお伝えします。すべてを一度に実践しようとしなくて大丈夫です。まず1〜2つから試してみてください。
コツ① ミラリング|子どもの行動をそのまま真似る
子どもが積み木を積んだら、大人も同じように積み木を積む。子どもが車を転がしたら、大人も同じように車を転がす。子どもの行動をそのままコピーするように真似します。
「自分の行動が相手に伝わって、相手が同じことをした」という体験が、コミュニケーションの基盤を育てます。
ことばがまだ出ていない段階のお子さんに特に効果的です。真似されることで「自分の行動が伝わった!」という成功体験が積み重なり、コミュニケーションへの意欲が育まれます。

最初は「なんで同じことしてるんだろう」と不思議そうにしていた子が、だんだん相手を意識するようになったとき、変化の始まりを感じます。
コツ② モニタリング|子どものことばをそのまま繰り返す
子どもが「わんわん!」と言ったら、「わんわん!」とそのまま繰り返す。子どもが「あー」と声を出したら「あー」と返す。子どもの音声やことばをそのままエコーのように返します。
例:子ども:「まんま!」
大人:「まんま!」

「ちゃんと言って!」と修正したくなる気持ちはわかりますが、まず受け取ることが最優先です。「自分のことばが相手に伝わった」という喜びが、次のことばへの意欲につながります。
コツ③ パラレルトーク|子どもの行動や気持ちをことばにする
子どもがしていることや感じていることを、大人がことばにして聞かせます。子どもは自分の行動にぴったりのことばを、自然にインプットすることができます。
例:子どもが砂を触っている → 「さらさらだね」「つめたいね」
子どもがジュースを飲んでいる → 「おいしそうだね」「ごくごくしてるね」

「これなに?」と問いかけるより前の段階では、大人がことばを先に聞かせてあげる方が、ことばの発達初期には効果的です。ことばの理解力をまずはつけてあげましょう。
コツ④ セルフトーク|大人自身の行動や気持ちをことばにする
大人が自分自身のしていることや感じていることをことばにします。子どもは大人の実況中継を聞きながら、日常のことばを自然にインプットしていきます。
例:ママが料理をしながら → 「ママはいまにんじん切ってるよ。ざくざく!」
ママが洗濯物をたたみながら → 「ふわふわだね。きれいになったね」

忙しい生活の最中でも、ひとりごとのように話しながら動くだけで立派なことばのインプットになります。難しいことばを使う必要はなく、今やっていることをそのままことばにするだけでOKです。
コツ⑤ リフレクティング|言い誤りを否定せず、正しいことばに置き換えて返す
子どもが言い誤ったとき、「ちがうよ」と否定せず、正しいことばをさりげなく置き換えて返します。子どもは否定されることなく、正しいことばを自然に聞くことができます。
例①:子ども:「とうもころし、たべたい!」
大人:「とうもろこし、食べたいね!」
例②:子ども:「ジュース、こぼした!のんだ!」(「こぼれた」と言いたい)
大人:「あ、こぼれちゃったね」

言い誤りを直そうとすると、子どもは萎縮してしまいます。さりげなく正しいことばを聞かせることで、子どもは自然に修正されていきます。指摘しないことが大切です。
コツ⑥ エキスパンション|子どものことばを少しだけ広げて返す
子どもが発したことばを、意味的・文法的に少しだけ広げて返します。子どもが1語で言っていたら2語文に、2語文なら3語文に広げて返すイメージです。
例①:子ども:「でんしゃ!」(1語)
大人:「でんしゃ、はやいね!」(2語文)
例②:子ども:「あんぱんまん、いっちゃった」(2語文)
大人:「あんぱんまん、とおくに いっちゃったね」(3語文)

「もっとちゃんとしゃべって」と求めるのではなく、大人がお手本を聞かせてあげる形です。子どもは「1段階上のことば」を繰り返し聞くことで、少しずつそのことばを使えるようになっていきます。
コツ⑦ モデリング|子どもの話題に沿いながら新しいことばを示す
子どもが興味を持っているものや話題に沿いながら、新しいことばのモデルを見せます。子どもが聞きたい場面に合わせてことばを示すことで、定着しやすくなります。
例:子どもが電車を見て興奮している → 「特急電車だ!ピューっと速いね!かっこいいね!」
子どもがお絵かきをしている → 「ぐるぐる書いてるね。まるだね。大きいね」

子どもが「今まさに興味を持っているとき」がことばの学びのゴールデンタイムです。絵本や図鑑で教えることも大切ですが、実際の場面でのリアルなことばが一番定着しやすいです。
コツ⑧ 少し待つ|ことばが出るための「間」をつくる
子どもが何かを伝えようとしているとき、すぐに代わりにことばにしてあげるのではなく、「うん?なに?」と言いながら2〜3秒待ってみましょう。子どもは理解して、ことばにするまでに大人より時間がかかることはよくあります。子どもが自分でことばを出そうとする「間」を大切にします。

お子さんが何かを伝えようとしているのに、大人が先にことばにしてしまうケースをよく見かけます。待つことは、子どもが自分で発話しようとする力を育てる大切な関わりです。沈黙を恐れずに、温かく待ってあげてください。
コツ⑨ 2択で問いかける|選択肢を2つ渡してことばを引き出す
「どれがいい?」と漠然と聞くより、「ジュースとお茶、どっちにする?」のように2択で問いかけることで、子どもが答えやすくなります。選んだ方のことばを自然に発語するきっかけが生まれます。子ども自身も自分が選んだこととして、次の行動がスムーズになることが多いです。
例:「おやつ、バナナとせんべい、どっちにする?」
「公園と図書館、どっちいく?」
「赤と青、どっちのコップにする?」

「なにがほしい?」という開かれた質問は、ことばの発達初期の子どもには答えにくいことが多いです。2択にするだけで、子どもが答えやすくなり、自然なやりとりが生まれます。選んだあとに「バナナ!いいね」と受け取ることも忘れずに。
コツ⑩ 共感ことばをかける|評価より共感を
「上手!」「すごい!」という評価のことばではなく、子どもと一緒に感じることばをかけましょう。評価ではなく共感が、子どもの「もっと伝えたい」という気持ちを育てます。
例:
「上手!」→「わあ!高くなったね!」
「すごい!」→「できたね!うれしいね!」
「じょうずに描けたね」→「きれいな色だね!何描いたの?」

「上手」「すごい」は子どもを励ます言葉ですが、ことばの発達という観点では、共感のことばの方が効果的です。共感されると子どもは「もっと話したい!もっと見せたい!」と感じ、やりとりが続いていきます。
やってしまいがちなNG話しかけ方
良かれと思ってやっていることが、実は逆効果になっていることがあります。代表的なNG例を紹介します。
NG① 「言えるまで繰り返させる」
「ちゃんと言って」「もう1回言って」と言えるまで要求し続けることは、子どもにとって大きなプレッシャーになります。ことばへの苦手意識につながることも。言い誤りはリフレクティング(コツ⑤)でさりげなく返してあげましょう。
NG② 「テストのように問いかける」
「これは何色?」「これは何?」と知っているかどうかを確認するような問いかけを続けることは、やりとりではなくテストになってしまいます。インリアルアプローチでは「子どもが主役、大人はサポーター」。まず大人がことばを見せてあげましょう。
NG③ 「急かす・先取りする」
子どもがことばを出そうとしているのに「〇〇でしょ?」と先に言ってしまったり、「早く言って!」と急かしたりすることは逆効果です。コツ⑧の「待つ」が大切です。
NG④ 「テレビ・スマホを流しながら話しかける」
テレビやスマホの音声が流れている環境では、子どもは大人の声と区別しにくくなります。話しかけるときは向き合って、子どもの目線に合わせることを意識しましょう。

NGと書きましたが、「やってしまっていた!」と落ち込まないでください。大切なのは「今日から少し変えてみよう」という一歩です。すべてを完璧にやろうとしなくて大丈夫ですよ。
まとめ
この記事のポイントを整理します。
① まず「SOUL」の姿勢を意識する
静かに見守る・よく観察する・深く理解する・耳を傾ける。技法の前にこの土台が大切です。
② 話しかけ方10のコツを少しずつ試す
すべてを一度にやろうとしなくてOK。まず「パラレルトーク」と「少し待つ」から始めてみてください。
③ ことばは「教えるもの」ではなく「育てるもの」
楽しいやりとりの中でことばは自然に育ちます。完璧な話しかけより、一緒に楽しむことが一番の近道です。

インリアルアプローチの根本にあるのは「子どもへの尊重」です。子どもが今できることを認め、子どものペースに合わせ、やりとりを楽しむ——その積み重ねが、ことばの発達を支えます。今日から一つだけ試してみてください。きっと変化が生まれます。
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